ポニテと洗濯

航海日誌

北京留学n日目

8月31日

 

 銀行に行くため涼しい朝にバスに乗る。宿舎からバス停まで、南北に抜ける大きな道にかかる巨大な歩道橋を渡るのだけど、何の気なしにふと北を見て、何となく茫然とした。そうだ、ここは筑波じゃないから筑波山は見えないし、川越じゃないから関東平野を守る山脈だって見えるわけがない。知っていたつもりだったのに、どうしても北には双峰が見えるという、身体に染み付いたその視覚が私を殺した。私が見たのは、北京の北西にある山脈。名前はまだ知らない。

 ところで、中国の建物は基本的に入口に暖簾がかかっている。透明な、重たいプラスチックの大きな短冊を並べたようなやつ。自分の説明能力の低さにほとほと嫌気がさすが、そのうち写真でも撮っておこうと思う。この前、暖簾をかき分けるのに失敗して正面から暖簾に激突した。隣にいた中国人が一瞬唖然として、それから爆笑した。なかなかに痛かった。それなりのスピードで暖簾に突進していたので。

 北京の朝は涼しい。湿気がないからだと思う。バス停のベンチで大声の中国人と電話しながら、日本語チョトダケデキル中国人を待った。合流して、朝ご飯を食べる。こっちの朝食事情が私は好きだが、それについてはまた今度。銀行で手続きをしたのは、QRコード決済のできるアプリだ。支付宝の文字は日本のお店でも見ることがあるだろう。とかく便利なものだ。これで私はこの大陸でほぼ無敵と言っても差し支えない。というのはちょっとだけ過言だけど。

 目覚まし時計とか、ピンチハンガーとかを買った。対面の小売りブースでは、やっぱり値切りは常識らしい。さすがにスーパーとかだとそんなこともないけど。地下鉄の駅で中国版パスモにチャージして、中国人と別れてさらに一人でスーパーに向かった。大声の中国人と電話しながら、必要なものを買いそろえていく。「すみません、食器洗剤どこですか?」私が聞くと、愛想のいい店員さんが言った。「後ろのほう!」後ろのほうに行った。後ろのどこだかは分からなかった。「後ろってどの程度後ろなんだ?」ぶつぶつ言いながら探すと、かなり後ろのほうにあった。老舗メーカーの黄色い食器洗剤を買った。「ウェットティッシュどこですか?」別の店員に聞くと、彼女は忙しかったのか雑に手を振った。「あっち」。ティッシュコーナーだ。「あっちのどこ?」すでにトイレットペーパーを購入していたので、あっちなのは分かっている。さらに食い下がると、彼女はめんどくさそうに答えた。「前のほう」。前ってどっち!誰から見て前!しかしそれ以上の語彙がなかったので、私はすごすごと引き下がって、とりあえず店舗の入り口を前と仮定して探しに行った。あった。天才。

 買い物を済ませて、宿舎に戻る。買ったものをそのまま放置していた部屋を、どうにか片づけて、それからたしか久々にマイクラをやるなどして、寝た。どうにも体力が持たない。